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2023.10.19

スポーツ活動と心筋症(突然死を含む)

トレーニングをしていると、筋肉が鍛えられて太くなっていくように、いろいろなスポーツによって心臓も大きくなっていきます。スポーツ選手の心臓が大きくなることは19世紀にはもう知られていました。

心臓が大きくなる、といっても、いろいろな大きくなり方があって、やっているスポーツによって特徴が見られます。
重量挙げ、レスリング、砲丸投げなどの静的運動(等尺運動ともいいます。いわゆる筋肉トレーニングが主体の運動です。)では、筋肉が急に縮まるような運動なので、心臓には圧力の負担がかかり、心臓の壁が厚くなって、重量も増えてきます(求心性肥大)。

一方、マラソン、水泳などの動的運動(等張運動ともいいます。いわゆる持久力トレーニングが主体の運動です。)では、心臓から一回に送り出す血液の量が増えるため、心臓には血液量(容量)の負担がかかり、心臓の容積が増えます。結果として心臓は拡張という形で大きくなり、それに伴って心肥大となります(遠心性肥大)。
スポーツ心臓と呼ばれる状態は、これらの機能的、形態的変化をまとめた考え方です。心臓が大きくなるという現象については、スポーツ中のパフォーマンスを高めるために有利である、という考え方がある一方、激しいトレーニングは心臓の筋肉に傷害を引き起こす可能性があるので、過度のトレーニングは有害であるとする立場もあります。学校での心臓検診は、聴診器での診察と心電図で行われます。

診察では脈がゆっくり(徐脈)であったり、雑音(収縮期雑音、Ⅲ音、Ⅳ音)があったり、脈がとんだり(不整脈)することがあって、スポーツ歴があれば精密検査(心エコー、胸部X線撮影、長時間心電図検査など)を行います。

心電図では、脈がゆっくりで、乱れている状態(徐脈性不整脈)や心臓のなかの刺激を伝える機能に問題がある状態(房室ブロック)などが見られます。 心臓が大きくなっているといっても、スポーツ心臓では胸部X線写真で心胸郭比(胸全体の大きさと心臓の大きさの割合)の異常としてとらえられる事はあまりありませんが、心エコーではその特徴がはっきりします。重量挙げなどの静的運動では左心室壁の肥厚(筋肉が増える)がはっきりしており、マラソンなどの動的運動では、左心室内腔の増大(容積が増える)が特徴的に見られます。
スポーツ心臓は病気で心臓が大きくなっている状態と区別する必要があります。そのなかでも、肥大型心筋症はスポーツ中の突然死の原因として重要です。

とくに選手を含む若い人では頻度が最も高くなっています。その原因は不明であり、突然死にいたる詳しい理由はわかっていません。

 

症状としては、動悸、息切れ、めまい、胸の苦しさなどがありますが、症状のない場合もあります。

心筋症を疑わせる症状などには、次のようなものがあげられます。

 

(1) 心臓病があるといわれたことがある
(2) 心雑音があるといわれたことがある
(3) 心電図に異常があるといわれたことがある
(4) 家族の中で原因不明で急死した人がいる
(5) 親戚の中で心筋症と診断された人がいる
(6) 脈が急に速くなったり、不規則になったりする
(7) 運動をしたときに胸が痛くなったことがある
(8) めまい、立ちくらみがある
(9) 意識を失ったことがある
(10) 安静時、睡眠中に息苦しくなったことがある

 

スポーツ歴の有無と心エコーがスポーツ心臓との区別に役立ちます。スポーツ心臓の場合、それが形成されるためには、トレーニングはかなり長期間でハードなものが必要とされていますし、スポーツ(トレーニング)を中止すれば、その特徴の多くはなくなります。

また、心エコーでも左心室の拡張機能(心臓の柔軟さと考えてください。肥大型心筋症ではこれが障害されています)は正常に保たれています。肥大型心筋症でも日本では、心臓の一部(心尖部:心臓の下の端っこ)だけのものも多く見られるので、精密検査を受けた上でスポーツが許可される場合もありますが、趣味の範囲にとどめ、競技スポーツは禁止となります。心筋症にはほかに拡張型心筋症があり、これも原因不明で心臓の収縮力が弱くなって心臓が拡大していく病気ですが、やはり競技スポーツはできません。

つぎに先天性冠動脈奇形といって、心臓に酸素、栄養を送る欠陥である冠動脈が出ている場所が悪いために、運動したときに血液の流れが悪くなって急死することがあります。これは、血管造影という方法でなければわかりません。元気なうちに診断することは困難です。
解離性大動脈瘤の破裂による急死もときに見られます。主にはマルファン症候群という先天的な遺伝性の病気によっておこるもので、以前にバレーボールの女子選手が試合中に急死したことが大きく報道されました。背が高く、手足の長いのが特徴です。もちろん成人に多い冠動脈の動脈硬化による虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)も、最近の食生活の欧米化に伴って増加傾向にあり、血中コレステロール値のコントロールが欠かせなくなってきています。
これらのほかに心筋炎も突然死の原因として重要です。心筋炎は風邪のような症状ではじまり、おなかの調子が少し悪い、微熱がある、関節が痛い、筋肉痛があるといった軽い症状があって、いきなり心臓が止まったり、心不全になったりするもので、いろいろなウイルスや薬の影響などが原因として考えられています。

軽い風邪症状のときでも、発熱、筋肉痛、倦怠感があるうちは、運動は許可するべきではありません。また、咳、鼻水があるうちも運動は避けたほうがよいでしょう。

 

【参考文献】

1. 河野一郎:有疾患患者とスポーツ、スポーツ外来ハンドブック、南江堂、東京、P23-24、1992
2. 村山正博、河野一郎:一般臨床医のためのスポーツ可否・許可基準ガイドブック、南江堂、東京、1995
3. 日本体力医学会編:スポーツ医学、朝倉書店、東京、1998
4. Keul, J., Dickhuth, H.-H., Lehman, M. and Staiger, J. : The athlete’s heart – Haemodynamic and
Structure., Int. J.Sport. Med., 3. 33-43, 1982
5. Mitchell, J. H., Manon, B. J.. and Epstein, S. E.: 16th Bethesda conference; Cardiovascular abnormalities in
theathlete:recommendations regarding eligibility for competition, J. Am. Coll. Cardiol. 6. 1189-1232, 1985
6. 小堀悦考:スポーツにおける循環障害、スポーツ医学の基礎、朝倉書店、1993

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