競技スポーツをするときに、勝ちたい、記録を出したい、という願望があることを、全く否定することは、誰にもできないでしょう。それは、競技する選手本人だけではなく、この選手(チーム)を勝たせたい、という、コーチをはじめとする競技関係者、所属する団体(学校、自治体、国)にもあるでしょう。さらには、観衆にも、その期待感からも見て取ることができます。その目的のために、競技者は日々、練習に励み、鍛錬するのですが、なかには、不正な方法を使って、いい結果を出そうとする例があります。
国際オリンピック委員会(IOC)の医事規定では、「ドーピングとは、禁止物質に属する物質の投与、および禁止方法の行使である」とされており、競技能力を高めるために薬物などを使うことが、ルールで禁止されている、と考えてください。
ドーピングがなぜいけないかという理由は、これから述べる3つの点にあります。まず、競技者の健康を害する、ということです。そもそも、ドーピングが禁止されるようになったきっかけは、興奮剤などによる死亡事故が表面化したためです。また、ステロイドなどのホルモン剤を使うことで、身長が伸びなくなったり、子供が産めなくなった女子選手が出たりしたことは、テレビなどでも何度か報道されているので、ご覧になった方もあるでしょう。次に、フェアプレーの精神に反する、ということが挙げられます。スポーツはそのルールのなかで、競技者は対等で公平であり、努力がある程度結果に反映されるといった公正な競争なのだから、ドーピングはそれを損ねるとともに、スポーツの価値、存在を脅かすものです。最後に、ドーピングは、反社会的行為であり、社会に悪影響をあたえている、といえるでしょう。トレーニング効果をあげたい、外見をよくしたいなどの理由でアナボリック・ステロイドを使う青少年が出てきていることは、欧米では社会問題となっています。また、禁止されている薬物を手に入れるには、違法行為がからむこともあり、それらの中には、麻薬や覚せい剤も含まれるため、反社会的行為なのです。
では、どのような薬物がドーピングに当たる禁止薬物なのでしょうか。世界アンチ・ドーピング機構(WADA)は、禁止リストを次の4つに分類しています。
(1)競技会検査での禁止物質と禁止方法
(2)競技会検査および競技外検査での禁止物質と禁止方法
(3)特定競技で禁止されている物質
(4)指定物質。
(5)また、禁止されていないが乱用をモニターする物質のリストとして、監視プログラムがあります。以下に主なものを説明します。
(A) 興奮剤:カフェインなどの中枢興奮剤、アンフェタミンなどの覚せい剤、交感神経刺激剤などが含まれ、集中力や闘争心を高めたり、疲労感の軽減を目的に使用されるが、幻覚、ふるえ、血圧上昇などの副作用があり、正常な判断力を失わせる危険があります。市販の風邪薬、喘息治療薬、一部の漢方薬のなかには、エフェドリンが含まれるので、注意が必要です。
(B) 麻薬性鎮痛剤:疲労感をとったり、ストレスを下げるために使われますが、麻薬取締法の厳しい規制があります。
(C) 蛋白同化剤:筋肉増強に使われます。最近、大リーグの野球選手の使用で話題になりましたが、性ホルモンの異常、攻撃性が増えることによる犯罪への関連が問題になってきています。外国製サプリメント(栄養補助食品)のなかに入っている場合もあるので、注意が必要です。
(D) ベータ2作用剤:喘息の治療に使われますが、興奮剤としても使われています。一部の吸入剤のみ、申請によってその使用が認められます。
(E) ペプチドホルモン、糖質コルチコイド:筋肉増強、持久力維持などの目的で使用されます。以前は検出が困難でしたが、現在では測定可能になってきています。
(F) 隠蔽剤:利尿剤などをつかって、禁止物質の検出を妨害しようとするものです。